2015年5月12日火曜日

至福の乗鞍岳滑降            鎌田克則


  かつての春の乗鞍岳は、位ヶ原山荘に一泊して平湯温泉に下る憧れのクラッシックルートでありました。ところがスキー用具の発達とスキー技術の向上により、それに乗鞍高原の積雪も何故か減り、影が薄くなっておりました。

昨年5月GW、立命ワンゲルOBの木村さんより、位ヶ原山荘までバスが開通するの報に、早々に鈴蘭のバス停で待ち合わせ登ってみました。雄大、快適、山頂も射程距離と思われた。だが残念な事に私が風邪気味だったため、肩の小屋で涙を飲んだ。

来年こそと約束したが、今年の3月下旬の八甲田山で、私の体力的に自信が持てなくなり、4月の蓮華温泉も見合わせ、5月GWの乗鞍も危ぶんだ。

所がその木村さんから4月半ば内臓検査の結果が思わしくなく、再度検査するので、参加困難との知らせ。今更同行者を募る自信もなく、如何にすべきか逡巡するばかり。不思議なもので、行けないとなると思いは募るばかり。ましてや来シーズンに登れる自信が無いとなると、もう一生行けなくなる。矢も楯もたまらず、一人でも登って滑ってやる!!となる。

思いは通ずるもので、とても山にはついて行けないが、山麓で待ってやるという昔の山仲間が出て来る。片や3000m峰、絶対安全性を確保しなければならぬ。幸い肩の小屋までは何度も登っているので見当はつく。慎重に用具の手入れ、そして天候を見守った。要は天候と体力が勝負なのだ。 

5月1日(金) 全ては登頂優先、本来52日出発、3日アタックの予定が、2日の方がより好天との予報で、渋滞を避けられる事も有って、51日出発、その夜は乗鞍高原休暇村泊、翌日の準備に余念なし。これ程登頂に執念を燃やしたこと久しぶりだ。

5月2日(土) 早朝一人、車で三本滝に向かう。昨年の経験から、三本滝迄滑って来れる事が解っているので、そこに車があると便利。行って見ると100台以上が駐車しており、皆さん用具の準備中。それに備えて空車のバスが2~3台待機している。需要有る所に供給ありと言う訳。

8時45分、補助席も一杯ながら、全員座って出発。料金は1,250円也。ゆっくりと除雪された道路を登る。雪は昨年より少し少ない。もともとは多かったのだが、4月下旬の好天続きで急に減ったらしい。20~30分で位ヶ原山荘前に着く。

天候は快晴、気温は高く、それに昨年よりずいぶん人が多い。唯スタイルは千差万別。ピッケルアイゼンの本格的山屋から、山スキーヤー、テレマーカー、壺足で歩くゲレンデスキーヤー、ワカンやスノウシュウのボーダー、果てはスニーカーのハイカーまで、それぞれ登山届に記入していそいそと出発して行く。

私も遅れじとシールを張り登り出す。ルートはバラバラ。何しろ上に向かって登れば良いのだ。唯後から考えると大勢が進むルートが無難である。雪が少ないので、下手をすると這松に遮られる。

雪はかなり緩み砂状で、スキーで歩こうが、壺足で歩こうが、必ず後ろにズル。始めから一人だからゆっくり進むと決めて居るが、それでもしんどい。見渡すとやはりみんな喘ぎ喘ぎ登っている。

肩の小屋口のバス停小屋が見えて来る。上部には転々と蚕玉岳と剣ヶ峰との鞍部を登っているのが見える。登山者もだんだんそのルートに収斂されていく。私はマイペース、遅れようが這ってでも登る不動の決心。

 

 

 




右前方に穂高岳沢が見える。

しかし足元の前に進めたスキーに体重を掛けるとやはりズルと滑るのに消耗。要は雪が腐っていてどうにもならぬ。それでもひたすら上部に向かって2~3時間喘いだか。

 

 

 

 

やっと目指す鞍部に到着。ところがそこからは頂上までは雪が無い。何と頂上から滑るのを夢見ていたのだがサッパリ。スキーをデポし、兼用靴で雪と岩交じりの山陵を登り詰める。なかなか歩き難し。

 

 

 

 
 
 
 
やっと頂上。祠が有り、三角点も有る。穂高、槍、御岳は眼前に迫るが白山は霞んで見えぬ。人に頼んで穂高をバックにパチリ。時に1時半。

 

 

 

 

 

やはり穂高の山容は一番堂々としている。

スキーのデポ地点迄戻り、シールを外し。いよいよ滑降準備。足腰も疲れていて、いささか不安。靴やビンデイングを滑降モードにセット、いざいざ下らん。そして友人に電話。時に2時。

所が見ていると、皆さんは直下のややルンゼ状の斜面を降りて行く。覗き込むと途中が見えない。片や北方向に少し尾根上を進み、これまで登って来たルートの方が全斜面が見通せ、均一の緩斜面。迷わずそちらに進む。もう大半の登山者も登ってしまってギャラリーは少なくなっている。始めはぎこちなく回転。自信を取り戻して基本に忠実に体重移動。幸い手頃な斜面。雪面は荒れているが,腐り雪で押しつぶしていく。時折休みながら段々と大胆に。まるで蝶の様と言いたいが。

振り返れば山頂から見事に下っているではないか。下方を見ると雪が少なく、雪の繋がっているところを目指さねばならぬ。それに春山ツアールートの樹林帯入口にも達せねばならぬ。

幸い天候も良く、見覚えのある樹林帯も見えてくる。先ず一安心。何人かのスキーヤーが前後にやってくる。追いつ追われつ楽しく滑る。雪が少なくやや凹凸が有るが、そこはウン十年のキャリアー。如才なく突破。後は一か所嫌なところは有るが、それも何度も降りているので、適当に処理。第4リフトが見えてくる。ここから雪を切らさずに進めるか。この辺りはゲレンデの最上部なので,要領が解って居り、一番左寄りに進むと雪が繋がり、予定通り除雪道路の南端に到着。スキーを脱いで道路を左に廻り、50m程歩いて三本滝の上部のゲレンデに達する。そこから最後のゲレンデを今シーズン最後と華麗に滑り、三本滝駐車場に到着。丁度3時、友人に電話すると、待ちあぐねて「もう遭難届を出そうかと思った」と言う。「すまんすまん、この華麗な滑りを見せたかった」と。

この達成感。レベルの高低は別にして、目標を決め、あらゆる努力した結果の達成感は、正しく至福の境地。

雪の付いたままのスキーを急いで車に放りこみ込み、ルンルン気分で休暇村で待つ友人の所へ。

途中より眺めた乗鞍岳。あの頂上から滑ったのだ。

2日夜は休暇村が満員で、鈴蘭小屋に泊まる。

 

 

 

 

 

ここの露天風呂が最高。周りにミズバショウが咲いていた。

 

 

 

 

 

 

53日(日) 目的達成、それに天気が良い。

乗鞍高原の下の方に、水芭蕉の群生地があると聞き訪ねる。道端には桜が咲き薫風5月そのまま。

 

 

 

 

 

 
そして沢渡に車を置き、バスで上高地を訪ねる。大正池で下車、上高地まで歩く。この写真は田代池付近より穂高岳。やはり河童橋は鈴なりの人でした。

後は戻って中の湯に泊まる。

 

 

 

 

 
54日(月) この日は雨。野麦峠の長野県側、境峠経由地蔵峠を越え、開田高原から王滝に入り,2合目のたかの湯に泊まる。

 55日(火) 朝から天気が良い。木曽、開田高原を縦横に走る。

要は新緑、桃の花、桜が満開。
 
 
 

 
 
 
 
 
 
 

 
開田高原からの御岳山、噴煙が時折活発。
 

 

 
 
 
 
 
 
 
 
旧地蔵峠のお地蔵さん、と桜の下の石碑か墓か。「願わくは花の下にて春死なん その如月の望月ころ」(西行)を思わしますね。私は5月か秋を希望します。

 
 


 
 
 
 
 
 
 
 
56日(水) 本来5日に帰る予定が、6日も天気が良いと言うので、もう何時来れるや解らんと、木曽福島の安宿を見つけて泊り、又旧地蔵峠を越え、開田高原長峰峠、チャオ御岳、御岳西側の濁河温泉を訪ね、飛騨小坂経由飛騨川沿いに帰阪。さすがGWも最終日とあって、高速は空いていた。嗚呼満足。

0 件のコメント:

コメントを投稿