2013年4月16日火曜日

憧憬のサンモリッツ


海外初スキーで技術を磨く

中村 淳


 昭和241月に山岳部の氷ノ山合宿で初めてスキーを教わって以降、毎年スキーを続けて64年となるが、いずれも国内に留まり、一度は雄大な外国のスキー場へ行きたいと機会を窺っていた。

 その機会が訪れたのは、昨秋、北山の会のメンバーと丹波の大江山に登山した時だった。鎌田会長から「来年1月にスイス・サンモリッツでスキーをする」と聞き、その場で参加を申し込んだ。

 鎌田会長からのメールで、参加者14名、2013112日~21日の10日間の計画が示され、続いて旅行会社のヒマラヤ観光開発の大島さんから手続き開始の書類が届いた。インターネットでゲレンデを調べながら、サンモリッツの雪に思いを馳せた。

 112、関空発23:45の深夜便で一路ドバイを目指す。10時間のフライトでドバイ着13日の8:00、ここで乗り継ぎ、ドバイ発10:00の便に乗り、6時間のフライトでスイス・チューリッヒ着14:00、関空からここまで18時間の移動となった。
 
 入国後、列車を2回乗り継いで、サンモリッツ着18:00、タクシーに分乗してクラブ・メッドに入る。ロビーラウンジではウエルカム・ドリンクが始まり、各国の人々で溢れている。松下さんと同室となり、315号に入る。関空を出てから26時間に亘る長い移動が終わった。その日の内にスキーを借りて、Class3を申告して明日の準備を整えた。
 
Club Med Hotel
 
 114、これから5日間のスキーカリキュラムが始まる。スキーヤーは初級のClass1から上級のClass5のグループに分かれ、それぞれのインストラクターに引率されて出発。初日のスキー場はサンモリッツの北に広がるCorvigliaだ。ゴンドラ乗場まで600m程スキーを担いで移動、結構な運動量だ。
 
 Class3は我々6名とドイツ、ロシアなどの男女を交えて12名。インストラクターは精悍な顔をした28歳のイタリア男性、6か国語を話すが、日本語は片言、共通語は英語で意思の疎通を図る。
インストラクター
 
 
 リフト乗り場で搭乗券が無いのに気付き、ホテルまで取りに帰ったため、午前中はClass3と別行動となり、自由に各コースを滑り、お陰で足慣らしをすることができた。
 


 13:15 標高2486mにあるClub-MedClass3と合流し、ホットワインを飲みながらバイキングランチを楽しむ。14:20 団体行動開始、インストラクターを先頭にロシア、ドイツの後に我々が滑り、森村さんがラストを務める。
 
 リフトを降りたところでインストラクターが滑降コースの注意事項と回転の技術指導を行い、先頭を滑りながら後に続く我々の滑り方を注目する。止まった時に、すぐ後ろの人に滑り方の個人指導をする。次に滑り始めるときに、彼に続く人が指名され、技術指導を受ける。こうしてこの期間中に全員がインストラクターの個人指導を受けることになるのだ。
麓のサンモリッツ
 
 Class3のスキー技術は、2本のスキーを平行にした状態で回転するパラレルターンだ。シュテム系のスキーヤは、回転時に外スキーが開く習性がある。自分自身これまでシュテム系パラレルターンをしてきたが、ここサンモリッツの数日間のスキー指導を受けて、パラレルターンを習得し、スラロームを楽しむことができた。
 
 115、スキー2日目は、バスに乗りサンモリッツの南西にあるCorvatschスキー場へ移動する。ゴンドラで標高2702mの中間駅Murtelへ登る。コース右サイドから外に出ないよう指示され、まず幅の狭いコース7を滑る。所どころ新雪の下にクラスとした雪面があり、山側エッジを効かさないと横滑りする。
 コース半ばでドイツ男性が転倒して頭を強打し、眼鏡フレームで鼻を切り出血。インストラクターは彼を寝かせて応急手当し、救護を確認するまで現場に留まる間に、別のインストラクターと交代し、Class3は滑降を再開する。
 このインストラクターの教え方が上手だった。1・2で膝を曲げて体を沈み込ませて、3で山側の足に体重をかけて伸び上がり回転するという簡潔な基本動作だ。

   この回転を確実にするために「1,2,3」と声を出しながら、上下の屈伸、左右の体重移動を確かめるようにした。視界不良のガスの中でも1--3と動作を確認しながら回転を続けることができた。
12:45 中間駅のClub Medで昼食、この間に救出を終えたインストラクターが合流する。14:00 スキーを再開、コース6を下り、Tバーリフトで中間駅へ登る。再びコース7を滑り、2497m地点からリフトで2643mのGiand alva へ登る。ここから上級コース5を通ってサンモリッツまでの大滑降が始まる。
 
滑降コース
 
眼下のサンモリッツの街を観ながらスラロームを楽しむ。広い斜面に出たところで右手の新雪面に入り、雪の感触を味わいながら滑降を楽しんだ。
 
116、スキー3日目は初日と同じCorviglia、ゴンドラを降りてリフトLで登り、Corviglia 2486mからMurguns 2278mへ滑降、右手のリフトSLas Trais Fluorsに登り、コース2223から25の林間コースを通って麓のイタリア村Celerina 1720mへ下る。
ここからゴンドラEMurgunsへ戻り、リフトRQCorvigliaClub Medに入り、ホットワインを飲みながらランチを楽しむ。
 
Club Med
 
 
後半は、コース8-4を滑降、リフトL2659mへ登り、コース4のスラロームを楽しみながら、コース28の林間道を一気に滑り、St.Moritz Bad 1772mに降る。ここからバスでホテルへ帰るり、Class5の高鍬さんが転倒、骨折で入院したとの情報を聞く。
 
夕食時に病院から戻った鎌田、上嶌さんの二人から話を聞く。右膝を骨折し、無事に手術が終わったとのこと。鎌田さんが旅行社の大島さんに電話し、この事故をカバーする傷害保険の手続きが開始された。
 
1173日間のスキーで足腰が疲れたこともあり、スキー4日目を休息日とし、高鍬さんを鎌田、倉橋、中村の3名でお見舞いに行く。鎌田さんは歩きながらも大島さんと交信し、情報交換が絶え間ない。
病院KLINIK GUTは街の中心部の山手にある。2階の15号室に入りと、高鍬さんが明るい顔で迎えてくれた。早くも歩行訓練が始まったとのこと、これには驚いた。
病室にいる間にも、保険会社のパリ駐在員からのFAXが病院に届き、見る間に書類が交わされていく。本人の帰国についても全ての段取りが明確に示され、現地での保険手続きが完了した。
Klinik Gut
 
 このクリニックは、サンモリッツに集まるスキーヤーの転倒事故の治療を一手に引き受け、短期間で退院させるということで有名な病院だという。
 
 右膝が痛々しい
 
 
 上の写真は、スイスの雑誌社がこの病院の取材に訪れた時にたまたま「日本人の医師が骨折治療中」の情報を得て面談され、雑誌に掲載されたものだ。本人は入院中、医師やスタッフとのドイツ語の会話を楽しんだようだ。
 この日の夕食はClassごとの会食となる。19:30に集合し、12名が窓際のテーブルに着く。インストラクターを囲んで赤ワインで乾杯したが、食事はいつものバイキングだ。隣に座った74歳のドイツ男性から「ナカムラさんの年齢が80歳?」と聞かれヤーと答えたが、見かけによらず年寄りだということだろうか。 
 
 118、カリキュラムの最終日は快晴に恵まれた。Class39:45にホテルを出発、ゴンドラでSignalへ登り、ここからインストラクターの先導で次々とコースを巡る。
 
 まずリフトL2639mに登りコース⑥で2486mのCorviglia、コース14Marguns 2278mへ下る。リフトRからコース17を滑ってGluna、リフトUからコース10でMarguns、リフトRからCorvigliaに戻る。最後にゴンドラDに乗って標高3075mのピークPiz Nairへ登り、大パノラマの眺望を楽しんだ。
 

 ここから2278mMarguns までコース16-17のスラロームが素晴らしかった。思う存分に習得したパラレルターンを楽しんだ。この後Corvigliaへ移動し、Club Medで最後の昼食、ホットワインが美味しかった。
 最後の滑降は標高2486mから麓のSt.Moritz Bad 1772mまでだ。何度も滑ったコース8-4-28を気持ちよく飛ばす。スキーを脱ぎ、全員でインストラクターを囲み、5日間の指導に感謝する。
 
 119、最終日は全員で一緒に滑ることになる。4コースを一緒に滑った後、別れて先にホテルへ戻る。ホテルで昼食を取り、帰国の準備をする。
 今回借りたのはロシニョールの新型カービングスキー、165㎝なのに非常に重く、担いで運ぶのに苦労したが、滑ってみると重量感はなく意のままに滑ってくれた。安定感があり、大きな転倒することなく6日間のスキーを終えることができた。
 
 インストラクターから「回転はよくできている。滑降中のストックの位置が前に出すぎているので、体に近づけること。次回はClass4へランクアップ」などの講評をもらった。
 
 何よりも短期間で滑降技術が身についたことが嬉しかった。と同時に、夢のよう
に上手く滑れたのはサンモリッツの雪のマジックではなろうか。果たして日本の湿雪で同じように滑ることができるだろうかという思いがあった。
 2月に白馬乗鞍高原スキー場で滑ってみた。ゲレンデの状態は、夜間に圧雪したコースに新雪が15㎝ほど積もっている。サンモリッツと比べると重い湿雪だ。ガスのため視界が悪く雪面がよく見えない。
 
 蕨平
 
 
この状況では視線を下げて雪面を見ようとするが、足元を見るとめがくらむので、10m先を見ながら滑る。基本動作1--3の回転を始める。スキーが雪に埋まりながらも左右に回転し、スラロームを楽しむことができた。
 本年傘寿を迎えるこの年になって、間違えなく滑降技術が向上し、上手にきれいに滑る意識が身についた。これはサンモリッツで5日間スキー指導をしてくれたインストラクターからの免許皆伝であり、これからも体力のある限り極上のスキーを続けたい。
 
 皆様もこの簡潔な基本動作1--3の回転をお試しください。